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うたかた。

百合好きが落書きや妄想を色々乗っけてます。備忘録も兼ねてます。 倉庫兼サイト http://utakataxxxxx.jimdo.com/

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夢の中のまっすぐな道

北上さんSSです
ちょっと大北入ってます

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あたしは、昔っから寝ることが苦手だったんだよね。
多分物心付いた頃には既に、あの夢を見てたから。
嫌な夢。
嫌な夢を見たくなかった。
私の本当の家族に、その夢の内容、話したことあるんだ。
ああ、そうしたら、どうしたっけ、その辺は記憶が曖昧なのよね。
そうだ、雪、雪の中放り出された、私のこと鬼子だって罵って、締め出された。
白雪がぱらぱら私の鼻を擽った、雪が染みてきて寒くて堪らなかった。
あのときばかりは、夢の中に逃げたかった。
夢の中の私は、寒さなんて感じなかった。痛みも感じなかった。
思い出すのは、隣に居たあの子。
長い長い夢の中で、ほんの片隅にしかいなかったけれども。
あの子を失ったとき、初めて痛みを感じた。
あの時、生まれた感情はなんだったんだろう。
上っていく白い息をただ眺めていた。
そして夢の中で幾度も呼ばれた名を繰り返す。
「私は、日本海軍の軽巡洋艦。球磨型の3番艦…」
白い息は夢で吐いた硝煙に似ていた。
「最近夜戦続きで寝不足なんですよね…」
大きなため息を一つ吐いて、吹雪はカレーを口に運んだ。
今日の夕餉はカレーかぁ、駆逐艦の子はカレー好きだよねぇ。
「ね、カレー美味しい?」
「え、ええ。と言うか、北上さんだって同じの食べてるじゃないですか」
今日は花の金曜日、カレーが献立に組み込まれるのは毎週金曜日なのだ。
昔海軍でそんな風習があったんだって、それにならって金曜日はカレー。
あたしはそんなカレー好きじゃないし、ま、夕餉は選べるシステムなんだから別のメニュー頼めばいいんだけど。
なんか吹雪が美味しそうに食べてて、ついカレーを選択しちゃったのよね。
「いいよねぇ~駆逐艦の子は悩みなさそうで」
「わ、私たちにだって悩みの一つや二つありますよ!!むしろ北上さんのほうが悩みなさそうです」
「あらま、そんな風に見える?」
カレーに狂ったように七味をかける。
それを見た吹雪が顔をゆがめた、ほら、と言いたそうに。
「あたしにだってねぇ~悩みはあるのさ。慢性的な悩みがね」
「はぁ……あ、改造のことですか?雷巡云々って提督が零してましたよ」
吹雪はほぼそれが悩みの正体だと言わんばかりの顔をしてたけど、うーん当たらずも遠からずってところかな。
本当のこといっても多分、彼女は首を傾げるだろう。
それが?って。
「うん、それでいいよ」
「それでいい、ってなんですか?私的にはそれしか考えられないんですけど…あっもしかして…」
急にだらしなくニヤニヤし始めた、なに考えてるんだか。
「ちょっとにやけないでよ駆逐艦」
「こ、恋…とか。きゃっ」
「うーわー…酸素魚雷撃ちたい」
七味激辛カレーを口に運んで、半ば本気でそう思った。
「…ねえもしもさ、夢に出てきた人に本当に合えるとして、吹雪ならどうする?」
「恋!やっぱり恋なんですね。というか、北上さん意外と乙女チックですね!!めでたいです!カレー止めてお赤飯にしましょう!!」
「あーも、恋愛じゃないって、大体今の顔すら知らないんだって…そもそも会える保障すらないし」
「…もしかして、姉妹艦の誰かですか」
急にワントーン落として伺うように聞いて来た、うん、短く返事をする。
私に意識が生まれた頃から記憶の中に存在してた妹の存在。
いや、姉も妹も仲間もいっぱい居たはずなのに、一番はっきりと覚えてるのは彼女だった。
会ったことがないのに、私の記憶の中で肥大してる彼女。
彼女に対して、会いたいような、怖いような複雑な気持ちを抱いていた。
「会いたいような、会いたくないような…どんな子なんだろうって」
「私も、皆と会う前は怖かったです。でも、みんないい子だったし、深雪は戦うことができて嬉しかったって言ってました」
「そっかぁ」
「えと、元気出してください、北上さんの姉妹艦なら…た、たぶんいい人だと…あ、これ私もうお腹いっぱいなので…」
そういってデザートのプリンを、あたしのお盆に乗っけた。
吹雪なりの気の遣い方なんだろう、そう思うとなんだか可笑しかった。
子供がお腹いっぱいだからって、甘いもの食べないわけないでしょ。
「駆逐艦が遠慮しないでよ、あたし、甘いもの苦手なんだ」
今日は土曜日、一応カレンダー上では休みとなっているが、見回り当番があたってるあたしみたいなのは出てこなきゃいけない。
言っても、特にすることもなく一回目の見回りを適当に終わらせて当番室で怠惰にすごしていた。
今日の相方である龍田は、秘書艦でもあるため、提督と二人で工廠で作業をしていた。
休みなのにとぶつぶつ文句をいってたけど、提督が今週のノルマに達しない云々いって無理矢理連れて行っちゃった。
うーん無能な上司を持つと苦労するねぇ。
「工廠からのお知らせ~新しい子が到着したみたいよ~」
龍田ののんびりとした声がスピーカから聞こえた。
ずっと不知火で慣れてたから、なんだか不思議な心地だった。
こういったお知らせも秘書艦の子が担当することになっていた。
先月まで不知火だったが、遠征隊に所属されることになった為、新たに秘書艦になった龍田が急きょ引き継ぎをしたらしい。
龍田も、面倒くさいお役人仕事やりたがるような子じゃないのに、なんでだろう。
もしかして、提督に惚れてるとか?いや無い無い。
「おい、北上いるか?」
「はい、どうしたました~?」
ドアを上げると提督が図鑑を片手に突っ立ていた。
反対の手には書類一式、これは新しく着任した艦娘のデータだろう。
「急で悪いが、今日入った新しい子お前が面倒見てやれ」
「えーもう駆逐艦のお世話は懲り懲りです」
「そう言うなって、今度の子は軽巡洋艦だから。しかもお前と同じ球磨型の子だぞ」
提督は図鑑を乱暴に捲り、ある一つの艦を指差した。
その姿は、散々夢にでてきた、あの子と全く同じ姿をしていた。
驚きに全身の血が凍るようなぞわりとした嫌な感覚。
彼がなぞるように下記の文字を読んでいく。
「軽巡洋艦。球磨型の4番艦、大井。お前の妹みたいなものだよ」
私の上の妹は、大井という名前だった。
この姿で会うのは初めてだったが、あの子を見た瞬間一目で分かった。
綺麗なミルキーブラウンの髪、目はパッチリと明るく、仕草は無駄が無く上品、そして何よりとても綺麗だった。
「あ、あたしが先輩の、軽巡洋艦球磨型3番艦、北上よっ」
変な話だけど、すっかり緊張しちゃってどもってしまった。
後ろで提督が吹いたのであとで魚雷を打ち込んでおこう。
「私も球磨型なんです、北上さん。よろしくお願いします」
「あー、むず痒いから敬語は無し無し、ね、貴方のこと、大井っちって呼んでいい?」
大井っちのぽかんとした顔が、綺麗な顔とのギャップを相まってとても可愛かった。
数週間指導係りとして、大井っちはあたしの後輩になった。
あたしと性能が似てるお陰で教えやすいし、なにより夢で焦がれていた妹を話すことが出来て舞い上がっていた。
調子に乗っちゃうのはあたしの悪い癖だって自覚してたはずなんだけど、それすら忘れるほど有頂天だった。
「大井っちはあたしにくっついてればいいよ、装甲紙だけどこの辺の敵なら大丈夫っしょ」
「わ、私は大丈夫です。守ってもらわなくても自分の身は自分で守れます」
「いいじゃん、昔は姉妹だったんだから。あたしがお姉ちゃんで大井っちが妹。お姉ちゃんが妹を守るのは当たり前だよ
だって、守ってあげないと、大井っちはあたしより先に…」
軽い気持ちで、ぽろりと零してしまった。頭の中ではやく謝らないと、と警告を鳴らす。
ごめん、そんなつもりじゃなかった、思わず手首を掴んだ。謝罪の言葉よりも早く、大井っちが声を荒げた。
「姉妹だったのは前の話でしょ!!」
大井っちの激昂した叫び声と同時に、掴んだ手首を振り払われた。
まさか拒否られるとは思わなかった。
あたしは豆鉄砲をくらった鳩のように、マヌケな顔で彼女を見る。
大井っちは目からボロボロ涙を零して、それを必死に拭っていた。
儚くて、綺麗なおとなしい子だと思っていたけれど、意外と激情な面もあるらしい。
「守られるだけなんて嫌。北上さんとは、対等でいたい。今度はずっと隣に居て戦っていたいの」
今度、というフレーズ。そうか大井っちも昔の記憶をもっているんだ。
でも、どうすればいい。
私はずっと、ずっとこの子に会いたかった。
でも今は何でもない、本当の姉妹じゃない。
じゃああたしとこの子はなんていう関係なんだろう、
ううん、どんな関係を築けば良いんだろう。
「大井っち…あたしとともだち…ううん親友になろう?」
「どう違うの?」
しゃっくり混じりで大井っちが尋ねた。
「友達はいっぱい居るけど、親友は一番の友達、たった一人の一番大切な相棒。あたしの隣は大井っちの場所だよ」
「私の…場所?」
「一緒に、強くなろう?今あたし雷巡改造の話があるんだけど、大井っちも早く強くなって一緒に雷巡になろう?
そのためなら、あたし色んな事教えてあげる。」
思わず大井っちの手を握っていた、視界がぼやけてあたしの目からも涙が零れる。
「…うん、私も二度と北上さんと離れたくない」
大井っちも泣いてた、泣いてるけど、とても嬉しそうにみえた。
ああ、よかった。
言葉を交わせる体でよかった。
大事な人に触ることが出来る体になれて、本当に、良かった。
あれから、あたしは嫌な夢を見なくなった。
昔の家族のことも、あまり思い出さなくなった。
その代わり、大井っちの夢を見るようになった。
戦うだけの夢じゃない、笑ったり、怒ったり、くすぐったい気持ちになれる夢を見れる。
今日も布団にもぐりこんできた大井っちの頬に、そっとキスを下ろす。
自分の運命を自分で変える出来る。
なんて、しあわせなんだろう。
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